A.公衆送信権とは
著作権者が占有する、著作物について公衆送信を行う権利です。
公衆送信の下位概念には、放送、自動公衆送信及び送信可能化が入ります。
自動公衆送信には、視聴者の求めに応じて行われる、ダウンロードやストリーミング放送などが当てはまります。
つまり公衆送信権には、著作物を放送する権利と、インターネット等でダウンロードや閲覧・視聴ができるようにする権利が含まれます。昨今の電子技術の発達に伴い、大変重要なものとなっています。
●送信可能化について
自動公衆送信の場合は、送信行為が行われたことを確認することが困難な場合もあるので、(実際に送信してなくても)コンテンツをアップロードするなど、送信可能化するだけで公衆送信となると定められており、公衆送信権の侵害となります。
なお、著作隣接権においては、独立して送信可能化権として定められています。
<同じカテゴリの権利>
公衆伝達権 : 公衆送信された著作物を、受信装置を用いて公に伝達する権利。つまりテレビ放送やインターネット画面等を、多数の人に見せることを制限する権利です。
●「公衆」とは:(不特定多数・少数に加えて)特定かつ多数のものを含むとされています。マンションの住人のみに配信するような場合でも「公衆」にあたります。
(集合住宅での録画サービスについて: 知財高裁 平成19年6月14日平17(ネ)3258)
公衆送信権に関連する他の規定:
・自動公衆送信等の障害の防止等のための複製は適法(47条の5)
・美術品等の譲渡等のためのweb上への画像掲載は適法(47条の2)
・インターネット検索サービスによる複製と提供は適法(47条の6)
・著作権侵害となる自動公衆送信であることを知りながら行う録音録画は違法(30条1項3号いわゆるダウンロード違法化)
●公衆送信権と表裏一体をなす、ダウンロード違法化(30条1項3号)について
違法なアップロード・送信と知ってダウンロードする行為は、平成21年改正により違法となりました。違法な音楽配信サイト、ファイル共有サービスなどの増加で、送信側を規制するだけでは抑止力に乏しくなってきたためです。
特徴:
・罰則が追加されました。損害賠償請求もあり得ます。
・違法なコンテンツであることを知ってダウンロードした場合にのみ権利侵害となります。
・海外からの送信の場合を含むことが明記されています。
※平成24年度法改正により、罰則(懲役2年又は200万円以下の罰金)が追加されました。
●動画や音楽の共有サイトの適法性について
動画や音楽の共有サイトの利用者が、違法なコンテンツをアップロードして視聴可能にすることは、利用者が行った著作権の侵害行為となります。では、そのような利用者の行為を許した共有サイト運営事業者の責任はどうなるのでしょうか。
判例:TVブレイク事件 知財高裁 平成22年9月8日平21(ネ)10078
「しかるところ,本件サイトは,本件管理著作物の著作権の侵害の有無に限って,かつ,控え目に侵害率を計算しても,侵害率は49.51%と,約5割に達しているものであり,このような著作権侵害の蓋然性は,控訴人会社において,当然に予想することができ,現実に認識しているにもかかわらず,控訴人会社は著作権を侵害する動画ファイルの回避措置及び削除措置についても何ら有効な手段を採っていない。
そうすると,控訴人会社は,ユーザによる複製行為により,本件サーバに蔵置する動画の中に,本件管理著作物の著作権を侵害するファイルが存在する場合には,これを速やかに削除するなどの措置を講じるべきであるにもかかわらず,先に指摘したとおり,本件サーバには,本件管理著作物の複製権を侵害する動画が極めて多数投稿されることを認識しながら,一部映画など,著作権者からの度重なる削除要請に応じた場合などを除き,削除することなく蔵置し,送信可能化することにより,ユーザによる閲覧の機会を提供し続けていたのである。
しかも,そのような動画ファイルを蔵置し,これを送信可能化して閲覧の機会を提供するのは,控訴人会社が本件サービスを運営して経済的利益を得るためのものであったこともまた明らかである。
したがって,控訴人会社が,本件サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理する本件サイトにおいて,ユーザの複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,侵害防止措置を講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができるものである。
よって,控訴人会社は,本件サーバに著作権侵害の動画ファイルを蔵置することによって,当該著作物の複製権を侵害する主体であると認められる。
また,本件サーバに蔵置した上記動画ファイルを送信可能化して閲覧の機会を提供している以上,公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体と認めるべきことはいうまでもない。
以上からすると,本件サイトに投稿された本件管理著作物に係る動画ファイルについて,控訴人会社がその複製権及び公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体であるとして,控訴人会社に対してその複製又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止めを求める請求は理由がある。」
このように、違法なコンテンツが大量に放置されている状態であり、管理の努力がなされていない上、それによって事業者が利益を得ている場合は、サイトの運営事業者も著作権侵害の主体となり得ることが示されました。
●判例の紹介
まねきTV事件 最高裁 平成23年01月18日平21(受)653
まねきTVの仕組み
1)会員に加入すると、専用の装置を共同施設内に設置できる。
2)専用の装置はテレビ放送を会員の指定に従ってデジタルデータ化し、インターネット経由で会員宛に送信する。(装置は会員ごとに所有となり、それぞれの専用となる)
3)会員はインターネット経由で海外など好きな場所で番組を視聴できる。
※ポイント:・複製が行われず、送信のみである
・共同の施設内でテレビ放送を受信して、再送信している
<知財高裁の判断>
「各ベースステーションは,あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず,自動公衆送信装置とはいえないのであるから,ベースステーションに本件放送を入力するなどして利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは,本件放送の送信可能化には当たらず,送信可能化権の侵害は成立しない。」
<最高裁の判断>
「公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。」
「何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。」