A.著作権には、財産的側面と人格的側面があり、その人格的側面を保護する権利の総称を著作者人格権といいます。この著作者人格権は、公表権、氏名表示権、及び同一性保持権を包含しています。また、人格に基づく権利ですので、譲渡・相続できない一身専属的な権利となります。この著作者人格権は職務著作の場合には法人にも認められます。
著作物は、思想活動の成果であるところ、著作者の精神活動に敬意を表するために著作者として氏名を公表することを認め、また、著作物の改変や公表につき著作者の意思を尊重するために、著作者に認められた権利です。著作者の人格的側面の保護はベルヌ条約でも規定されていますが(6条の2)、日本の著作者人格権は、同一性保持権をも認めている点で、条約よりも厚い保護を与えていると言われています。
(公表権)
公表権とは、未発表の著作物をいつどのように公表するかを著作者が決定することができる権利を言います。著作者の内秘的自由を確保するために人格権として構成されています。なお、取引の合理性の観点から、未発表の著作権等を他人に譲渡した場合には、公表に同意を与えたと推定されます。
公表権の侵害は、実務上、殆どの場合著作権(複製権、公衆送信権、展示権等)の侵害を伴いますので、公表権の侵害のみが争われる場面は殆どありません。現在では、精神的損害を損害賠償に加算する程度の意味合いとなっています。
(氏名表示権)
氏名表示権とは、著作者が原作品又は著作物に自己の著作にかかるものであることを示す権利を言います。著作物等に対して氏名、実名、匿名かを決定する権利です。著作物につきましては、改名行為が直ちに侵害とはならず、公衆へ提供した時点で侵害となりますが、原作品については、私的利用の場面での改名行為であっても侵害となってしまいます。
なお、著作物の円滑な流通のため、著作者名の表示は、一定の場合には省略することが許 されます。
(同一性保持権)
同一性保持権とは、著作物とその題号について意に反して改変されないという権利を言います。パロディやゲームソフトとの関係でこの権利が問題となる場合があります。また、インターネットを通じたデジタル世界では、他人の著作物を加工して発信し、さらにそれを他人が再加工を行うことが往々にして行われており、同一性保持権と表現の自由に基づく改変との関係が非常に難しくなっています。著作権法では、やむを得ない改変を認めていますが、ここで許容される例として、用字の変更、建築物の増改築、電子プログラムを動作稼動させるための改変、不正確な演奏等が挙げられます。
(著作者人格権の消滅)
著作者人格権は、著作物の創作と同時に発生し、著作者が死亡(法人の場合は解散)した際に消滅しますが、死亡したら勝手に著作者の氏名を削除したり、著作物に改変を加えることは、著作者の人格の尊重から妥当ではありません。そこで著作権法では、著作者が死亡しても、著作者が存在していたならば著作者人格権の侵害が成立するような行為に対しては侵害を認めることとしています。但し、それでも永久的に保護を受けられるわけではなく、ある程度の期間が経過した場合にはその保護状態は消滅してしまいます(116条)。
(著作者人格権の放棄)
著作物の全てには著作者の氏名が表示されていませんが、これは著作者が著作者人格権を放棄したのではなく、著作者と利用者の間で権利不行使特約を結ぶことが実務上多く見られるためです。但し、人格権の不行使特約という契約自体、公序良俗に反するという意見もありますが、実務上は特約により整理することが最も多いです。 著作者人格権の主張を著作者に控えてもらう趣旨は、例えば、出版時に改変を許容したが後になって同一性保持権を主張されると著作物の円滑な利用は図れなくなってしまいます。この場合に、著作者人格権を放棄したと整理することもできますが、実務上は不行使特約として処理しているのです。
(著作隣接権者と著作者人格権)
著作隣接権についても実演家人格権として、氏名表示権(90条の2)、同一性保持権(90条の3)が認められます。実演は、公表が前提ですので、公表権については規定がありません。