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「遠山の金さん」事件のご紹介

 

平成25年(行ケ)第10233号 審決取消請求事件
平成26年3月26日 判決言渡 知的財産高等裁判所

【概要】
「遠山の金さん」が歴史上の人物であるか、これを一私人に独占させることは公序良俗に該当するかが争われ、特許庁が登録を維持した審決を知財高裁でも維持された事件。

 

【本件商標】
商標の構成:「遠山の金さん」 (標準文字)
登録第4700298号
指定商品:第9類「パチンコ型スロットマシン、等」第28類「遊戯用器具、等」

 

【関係条文】
商標法4条1項7号

 
【争点】
「遠山の金さん」は「遠山影元」と同一人物か
商標法4条1項7号に該当するか(剽窃、遺族(国民)感情、社会的影響、公益性)

 

【審決の内容】

「遠山の金さん」とは「遠山(金四郎)影元」(以下、遠山影元)の死後、同人をモデルとして講談や歌舞伎等を通じて作り上げられた架空の人物で、昭和の初期から現在に至るまで時代劇映画の主人公名やテレビ番組のタイトル名や主人公名として現在に至るまで広く知られている。「遠山影元」が実在した人物で、テレビ番組等の「遠山の金さん」を引用して紹介している実情があることに鑑みると、「遠山の金さん」に接する需要者はこれを歴史上実在した「遠山影元」と認識するよりも、むしろ、時代劇や被告(東映社)のテレビ番組のタイトル名やその主人公名を表示したものとして認識する。そして、被告は自己の制作に係る時代劇において使用する「遠山の金さん」の語に蓄積された信用と顧客吸引力を保護するために出願登録したものであり、その出願経緯に社会的相当性を欠くものがあり、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当しない。

【判決の要旨】
(1)「遠山影元」と「遠山の金さん」との同一性について
判決では、「遠山の金さん」は架空の人物ということはできないが、歴史上の人物である「遠山影元」そのものではないとして同一性を否定した。その理由として、「江戸時代後期に実在した遠山景元は,江戸町奉行等を歴任し,名奉行として賛辞されていたことまでは認められるものの,その具体的な呼称や仕事ぶりは不明な点が多く,現時点で「遠山の金さん」につき抱かれているストーリー,すなわち,桜吹雪の刺青を肩に彫った名奉行の遠山金四郎が,江戸の町中で「金さん」として遊び人に扮していたときに悪事を目撃した際に示した桜吹雪が,その後の白州での裁判時に決定的な証拠となって悪党を懲らしめて活躍するというストーリーと,必ずしも一致しているとは認められない。」「遠山金四郎が登場する歌舞伎等のストーリーが当初から確立していなかったことは上記のとおりであって,このことからしても,近時定着した上記ストーリーは,実在した遠山景元の仕事の忠実な再現というよりは,虚構を交えた娯楽性のある創作物という側面は否定し難い。」と説明している。

 

(2)商標法4条1項7号の該当性について
7号の該当性について以下の通り説示した。

 

・剽窃の点について

 

「被告は,「遠山の金さん」という名称をタイトル名ないし主人公名として初めて使用した者とはいえないが,昭和25年以降,「遠山の金さん」と呼ばれる主人公が登場する映画を多数作成し,昭和45年以降は,同名のテレビ番組を長期間にわたって多数制作してきたものと認められ,「遠山の金さん」の呼称やイメージを一般大衆に広めることに一定の寄与をした立場にあるといえる。 したがって,被告は,遠山景元と血縁関係を有する者の関連する会社や同人の生育地と地縁を有する団体に当たるものではないが,本件商標の登録出願を剽窃的に行ったものということはできない。」

 

・公益性

 

「「遠山の金さん」がテレビ番組のタイトル名ないし主人公名にすぎないことからすると,本件指定商品における本件商標の使用によって,「遠山景元」という歴史上の人物の名前を独占できるかという公益性のある社会的問題が生じる余地はなく,本件商標によって失われる公益は想定し難い。」

 

・遺族・国民感情

 

「「遠山の金さん」があくまでも遠山景元をモデルとして作り出された主人公名にすぎないことは,繰り返し述べてきたとおりであるから,そもそも遠山景元の遺族感情や同人に関する国民感情を問題にする余地はない」

 

・社会的影響

 

「被告が本件商標を登録したことによる法的,社会的影響については,公益的事業において歴史上実在した遠山景元を紹介するに当たって,通称として「遠山の金さん」の表現が併記されることがあるとしても,それは本件指定商品の範囲外で,類似する商品・役務に当たるともいえないから,公益的事業自体に支障が生じるとは考えにくい。」

 

以上の点から審決は維持された。

 

【解説】
本件はパチンコ機に関する争いが背景にある。原告は、2010年に「CR 松方弘樹の名奉行金さん」というパチンコ機を販売していた。これに対して、被告の許諾をもって他社(A)が2011年に「CR遠山の金さん ~燃えろ桜吹雪~」を販売した。画像

原告は、過去に「名奉行金さん」(標準文字)について第28類の「遊戯用器具」(パチンコ器具を含んでいる。)を指定して商標登録を受けた(登録5202737号(登録日2008年5月14日))。これに対して本件の被告は、本件の対象となっている商標登録を根拠に4条1項11号に該当する旨を理由に無効審判を請求した。その結果、「名奉行金さん」と「遠山の金さん」は、「取引等の実情を総合考慮するならば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼において,その全体を一連に把握すると類似しない点があるものの,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから,商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである。」と説示し、両商標は類似するとして「名奉行金さん」の商標登録は無効とされた(平成23年2月28日判決 平成22年(行ケ)第10152号 審決取消請求事件)。

また、被告は現在原告が製造販売していた「CR 松方弘樹の名奉行金さん」に関して著作権及び商標権侵害に関する訴訟を提起し現在係属している。したがって、本件は原告が被告の商標権の侵害に対抗する手段として無効審判を請求したものと推認される。

歴史上の人物名は、「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」である場合には公正な競業秩序を害するものとして4条1項7号に該当するものとされている(商標審査便覧42.107.04)。当該判決はこの判断に従うものであり、ただ、「遠山の金さん」は歴史上の人物である「遠山影元」と同一視できないと判断して同号に該当しないとしている。

過去の実在の人物が小説や演劇でその人の個性や性格、通称を作り上げられる場合があり、この場合に両者を同一視して歴史上の人物とするかはその判断が難しい。この点について判決では「実在の人物をモデルとする作品であっても,当該作者が史実にどの程度基づいて当該人物を描いているかによって,実在の人物と同一視できるか否かが定まる」と述べている。歴史上の人物は古ければ古いほど当該人物に関する資料が乏しいため、作者の想像が多分に加えられるもので、同一視することは難しくなるであろう。

ところで、本件で裁判所が認定した事実には雑学として興味深いものがある。遠山影元は江戸時代後期に江戸町奉行等を歴任した人物であるとする信頼できる客観的資料が非常に乏しいとする。また、存命中に「遠山の金さん」と呼称されていたとは推認できず、「遊び人に扮して町中に出かけて悪事を目撃し,その後,白州の場面で桜吹雪の刺青を証拠に悪党を懲らしめたという一連の逸話が,客観的史実に基づくものであると認めるに足りる証拠はない。」としている。

以上

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