知財高判平成25年9月5日判決、平成25年(行ケ)10045
本願商標 商願2011-4144 |
引用商標 登録第5085277号 |
江戸切子(標準文字) 地域団体商標 |
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第21類 切子模様を備えるクリスタルガラス製品,ほか | 第21類 東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区及びその周辺で生産されたガラス製酒瓶,ほか 第14類(身飾品等)、第40類(加工) |
カガミクリスタルHP 江戸切子の頁 http://www.kagami.jp/crystal/kiriko.html江戸時代後期、江戸大伝馬町のビードロ屋、加賀屋久兵衛が手掛けた切子細工が今日の江戸切子の始まりと言われています。町民文化の中で育まれた江戸切子は、江戸時代のおもかげを色濃く残し優れた意匠や技法の数々は、現代に至る160年もの間、切子職人たちによって受け継がれてきました。当時からよく使われた切子模様が一般的に「江戸切子」と呼ばれているものです。 |
江戸切子協同組合 http://www.edokiriko.or.jp/ |
同じく
地域団体商標として登録されている=需要者の間に広く認識されている、でよいか?
■過去の審決例
不服2007-1479 第30類「小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のスープ,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用のだし,小麦粉を使用した沖縄伝統のそば用の香辛料,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばのめん,小麦粉を使用した沖縄伝統のそばの即席めん,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそば,調理済みの小麦粉を使用した沖縄伝統のそばを含む弁当」 |
「明星 沖縄そば」(標準文字) 平成18年3月28日出願 |
「沖縄そば」 地域団体商標 平成18年4月1日出願、平成18年12月8日登録第30類「小麦粉を使用した沖縄県産のそばのめん」 |
4条1項10号 | 該当 |
不服2010-6666 第14類「キーホルダー,キーホルダー用のチェーン,キーホルダー用キーヘッドカバー,根付,貴金属製アンクレット,ピアス,チャーム,チョーカー,その他の身飾品,貴金属製置物,記念カップ,記念たて,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,貴金属製靴飾り,時計」 |
「博多人形キューピー」(標準文字) | 「博多人形」 地域団体商標第28類「福岡県福岡市及びその周辺地域で生産される人形」 |
4条1項15号 | 該当せず |
■博多織事件
商標権侵害差止等請求事件
福岡地方裁判所平成23年(ワ)第1188号
平成24年12月10日判決
原告商標 | 被告標章 |
「博多織」地域団体商標 登録第5031531号 第24類 福岡県博多地域に由来する製法により福岡県福岡市・久留米市・甘木市・小郡市・筑紫野市・春日市・大野城市・太宰府市・前原市・筑紫郡那珂川町・糟屋郡宇美町・糟屋郡志免町・糟屋郡須恵町・糟屋郡粕屋町・福津市・朝倉郡筑前町・糸島郡二丈町・佐賀県唐津市・佐賀郡川副町・佐賀郡久保田町・大分県豊後高田市・杵築市で生産された絹織物 第25類 |
博多帯 |
博多織工業組合 | 日本和装ホールディングス株式会社 子会社2社(はかた匠工芸 博多織物協同組合) |
(広辞苑第六版)
「博多織」
博多およびその周辺で生産される絹織物の総称。
「博多帯」
博多織の帯。
判旨「地域団体商標の効力と商標法26条の適用関係」
「地域団体商標は,商標法7条の2第1項が規定するところから明らかなとおり,地域の名称及び商品等の普通名称等のみからなる商標であるため,これに対する商標法26条1項2号又は3号の適用が問題になるところ,商標法には,地域団体商標に関して商標法26条の適用に関する特別な規定は存在しない。そして,従来,地域団体商標のような商標につき原則として商標登録が認められなかったのは,同商標が,当該地域において当該商品の生産・販売,役務の提供等を行う者が広く使用を欲する商標であり一事業者による独占に適さない等の理由によるものであるから,地域団体商標が商標登録された場合においても,地域団体商標権の効力が他の事業者による取引上必要な表示に対して過度に及ばないようにする必要がある。
もっとも,地域団体商標又はその類似する商標について,当該地域以外の事業者が自らの商品の産地又は商品の内容の表示として使用しなければならないといった事態は通常想定できないから(仮にこのようなことが行われる場合は産地偽装となる。),上記のような問題は地域内アウトサイダーとの関係において生じることになる。すなわち,地域内アウトサイダーが,自身が製造・販売する商品等の産地や同商品等の一般的名称など取引に必要な表示を全く付せなくなれば,営業活動が過度に制約されるおそれがあり,また,上記のような取引上必要な表示についてまで,これを付すことを禁止することは,同じ地域ブランド事業を行っている事業者のうち,地域団体商標権者たる団体に加入している者とそうでない地域内アウトサイダーを不当に競争において差別することになるから相当ではないし,地域ブランドが識別性を獲得するまでの間,他の地域の事業者等が地域ブランドの名称を便乗使用することの排除を容易にすることによって地域ブランドを保護しようとした地域団体商標制度新設の趣旨からしても過剰な規制である。
そうすると,地域団体商標として登録された商標についても,商標法26条1項2号又は3号が適用されるというべきであり,地域内アウトサイダーが,自身の製造・販売する商品等の産地及びその一般名称からなる当該地域団体商標又はその類似の標章を上記商品等に付して使用する限りは,それは主として取引に必要な産地や商品等の種類の表示であると評価することができるから,同使用は商標法26条1項2号又は3号に該当するものとして許されるというべきである。
なお,商標法は,地域団体商標については,原則として,地域ブランドを代表しうる団体に同商標に係る商標権を独占させると同時に、当該団体への自由加入を保障しているのであるから,地域団体商標として登録された商標の使用を希望する地域の事業者においては,できる限り上記団体へ加入した上,これを使用することが望ましいが,何らかの事情で団体への加入が制限され,または,自らの判断で団体へ加入しない場合であっても,上記のとおり,普通に用いられる方法で当該地域団体商標ないしこれに類似する標章を使用することは妨げられないというべきである。」
【考察】
地域団体商標として登録される地域の名称及び商品の名称等からなる商標は、当該地域において当該商品の生産・販売等を行う者が広く使用を欲する商標であり一事業者による独占に適さないので原則的に登録を認めないこととされていたものである。このため、地域団体商標が登録されたことにより、同種の商品を扱う者が商品の産地、品質等の取引上必要な表示を全く付せなくなれば、これらの者の営業活動が過度に制約されるおそれがあるので、地域団体商標に係る商標権の効力が他の事業者による取引上必要な表示に対して過度に及ばないようにする必要がある。このような趣旨から、商標権の効力が及ばない範囲について定めた商標法26条の適用については、地域団体商標に係る商標権に関しても特段の規定を新たに設けず、これらの規定の適用を認めることとされた(i)。
26条1項2号又は3号(商品・役務の品質・質表示等)の適用については、自他商品の識別機能を発揮する態様で使用されているか否かにより個別具体的に判断すべきであり、取引者・需要者の認識を基準として自他商品識別機能を発揮するような態様で商標が使用されていれば、同号の規定の適用はなく、地域団体商標に係る商標権の効力は及ぶ、と説明されている(ii)。
地域団体商標の使用が26条1項2号の「商品の産地、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当する場合する場合はいかなる場合かが問題となる。当該産品の取引者たる当該地域の事業者は、地域団体商標を品質表示として使用する必要性があるので、それらの者の使用については、同号に該当するものとして、使用が開放されていると考えるべきだろうか(iii)。
例えば、地域ブランドに係る商品が「(食用)牛肉」である場合、いかなる表示が商品「(食用)牛肉」の産地表示に該当するかが問題となる。
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
のガイドラインによれば、地名を冠した銘柄牛(ブランド牛)については、「主たる飼養地が属する都道府県」と「銘柄等に含まれる地名が属する都道府県」が同一である場合には、原産地名の記載を省略することが可能であるとされている。そして、「主たる飼養地が属する都道府県」と「銘柄等に含まれる地名が属する都道府県」が同一でない場合には原産地名の表示が必要であり、「○○牛(△△県産)」等と表示しなければならない、としている(iv)。
銘柄に地名が冠された銘柄牛(豚、鶏)については、冠された地名がJAS法上の原産地であると認識される、と説明されている(v)。
よって、地域ブランドとして登録されている商標に対しても、「○○牛」という表示が産地表示に該当するとの主張は可能と考えられる。
農林水産省により上記のように説明されているのは、一般需要者にも「地名+牛」の「○○牛」の表示は、「○○産の牛」と捉えられると考えられているという証左である。「地名+牛」の「○○牛」の表示に接した需要者は、「○○」が地名であると認識した場合には、「○○牛」がブランド牛との認識と同時に(あるいは全国的に著名ではないブランド牛の場合は、ブランド牛との認識の以前に)「○○産の牛」という産地、品質表示と捉えると考えられる。
(i)特許庁総務部総務課制度改正審議室編「平成17年商標法の一部改正 産業財産権法の解説―地域ブランドの商標法における保護・地域団体商標の登録制度」発明協会、2005年、21頁参照
(ii)同上、21‐22頁
(iii)田村善之「知財立国下における商標法の改正とその理論的な含意―地域団体商標と小売商標の導入の理論的分析」ジュリスト№1326、99頁「地域ブランドを使用しておきながら、「自他商品(役務)識別機能を発揮する態様で」商標が使用されていないと判断し得る事例はそれほど多くはないように思われる。そうとすると、事業者が取引上必要とする表示の使用に対してまで地域団体商標権の効力を及ぼすべきではないので26条は手つかずとしたという法の趣旨を達成することが困難となろう。」「これに対して、通常の意味でのブランドの保護ではなく、地域全体の事業者にとっての「ブランド」保護が地域団体商標制度の目的であると解する本稿の立場の下では、当該地域の事業者が用いる限り、26条1項2号・3号に該当すると解釈することになる。」
(iv)農林水産省「生鮮食品品質表示基準改正(畜産物の原産地表示)に関するQ&A」
http://www.maff.go.jp/j/jas/hyoji/pdf/qa_b.pdf
(v)同上サイト「生鮮食品の原産地表示の今後のあり方について」
「江戸切子」(広辞苑第六版)
江戸時代末期、江戸で作られ始めた切りガラス。無色または単色のガラスを用い、深く鮮明な切込みが特徴。
参照)明治大学知的財産法政策研究所 公開シンポジウム「農業と地理的表示保護制度」(2013年11月12日)議事録、西村発言http://www.kisc.meiji.ac.jp/~ip/_src/sc842/20131112sympo.pdf
弁理士 西村 雅子