• JP
  • EN
  • FR
お問い合わせ

Oshima, Nishimura & Miyanaga PPC

ニュース詳細

トピックス一覧に戻る

日本車両事件(周知性判断における需要者、識別力のない部分を含む表示の類否判断)

知財高裁 平成24(ネ)10067号(平成25年03月28日)
東京地裁 平成23(ワ)7924号(平成24年07月19日)

1.事案

原告(控訴人)日本車輌製造株式会社が、被告(被控訴人)の商号「日本車両リサイクル株式会社」の使用が、原告の営業表示「日本車両」との関係で、不正競争防止法2条1項1号又は2号に該当すると主張して、同法3条1項に基づき同商号の使用の差止めを求めるとともに、同法3条2項に基づき同商号の抹消登記手続を求めた事案の控訴審で、原告表示は周知・著名であるとはいえないとして原告の請求を棄却した原判決を取消し、原告表示の周知性、被告商号との類似性、混同を生じさせる行為、営業上の利益が侵害されるおそれを認定し、原告の請求を認容した事例

原告(控訴人) 日本車輌製造株式会社
明治29年設立
日本における民間最初の鉄道車両製造会社
日本における鉄道車両製造業界は,控訴人を含む5社がほぼ独占,控訴人は,その中でも最大手の鉄道車両製造会社
(親会社はJR東海)

被告(被控訴人)日本車両リサイクル株式会社
平成21年6月25日設立
鉄道車両の解体,リサイクルを主たる目的とする株式会社

判旨

原審の認定 周知性否定 控訴審の認定 周知性肯定
原告が製造した鉄道車両の多くには,その内部の前部又は後部の壁の上段に,原告表示を記載した銘板が設置されているが,新幹線車両など,鉄道会社の意向により,銘板が設置されていない車両も存在する。 同左の認定
新聞、雑誌等における他の表示との併用: 「日本車輌」「日本車両製造」「日本車輌製造」「日車両」「日車輌」等 同左の認定だが、 「日本車輛」との表示の差異について検討するまでもなく、 銘板、新聞・雑誌の広告、新聞記事⇒ 原告表示に周知性あり
原告及び被告以外に,商号中に「日本車両」又は「日本車輌」を含む法人が存在: 株式会社日本車輌,財団法人日本車両検査協会,日本車輌洗滌機株式会社,新日本車輌整備株式会社,日本車輌保障,株式会社日本車輌機器販売,新日本車輌有限会社,新日本車輌株式会社,東日本車輌株式会社,西日本車輌有限会社,北日本車両株式会社,北日本車輌株式会社,株式会社北日本車輌工業所 同左の認定
【著名性】否定
・原告表示のみが使用された全国紙の全国版は少数
・前記、原告表示以外の表示と併用
・原告は,現在は会社案内冊子やウェブサイトにおいて原告表示を使用しているものの,これまでに原告が,その営業であることを示す表示として原告表示を使用ないし宣伝していたことは格別窺えない。
・なお,原告は,原告と被告はともに鉄道車両を扱う同業種であり,同業者に対して原告表示が著名であれば著名といえると主張する。しかしながら,原告の主たる業務は鉄道車両の製造であるのに対し,被告の主たる業務は鉄道車両のリサイクルであり,主たる業務が異なるのであるから,原告と被告とが同業者であるということはできない。したがって,原告の主張は,その前提を欠きこれを採用することができない。
他の表示も含めた新聞、雑誌等における広告等:
(ア)全国紙 平成14年1月29日から平成24年6月19日までの間
「日本車両」25件以上
「日本車輛製造」80件
*(イ)地方紙(ウ)専門誌とも、数が多いとは思われない。
*一般消費者向けの商品ではないので、全国紙に掲載されているとしても、「広く一般の国民にも認識されている」と言えるのか?
→被告(被控訴人)主張
日本経済新聞での全面広告であるが,当該広告では,「日本車両という社名は,ご存じなくても,鉄道を利用なさったことがある方なら,すでにわたしたちと旧知の間柄です。」と記載されており,控訴人表示を知らない者が多数であることが想定されている。
・平成8年に創業100周年を迎えたのを契機として,コーポレートマークに「日本車両」との文字(控訴人表示)を組み合わせた社名ロゴマークを策定
*社内使用、自社ホームページ

・テレビ放送
*回数が多いとは思われない。
・博覧会等
平成元年に開催された世界デザイン博覧会(総入場者数約1518万人)に「日本車輌館」というパビリオンを出展し,同パビリオン来館者を対象に控訴人の認知度やイメージ等についてのアンケートを実施したところ,有効回答数220のうち,控訴人を「知っていた」との回答は76.4%であった。
*そもそも、来館者には鉄道車両に興味がある者、原告を知っている者が多いのではないか?
【周知性】否定
被告主張(控訴審)
控訴人は,「日本車両」等の文字が表示された銘板が一般旅客等の目に触れやすい位置に,見やすい大きさの文字で貼り付けられていると主張する。
しかし,銘板の多くは,車両の一端,一側の高い位置にあり,近付かなければ確認できない程度の大きさのものであって,控訴人の主張は実態に反する。参考)小田急線車内で2013/07/10 筆者撮影

*銘板の認知率は?
*銘板を見た需要者の認識は?
「日本車両」というブランドと見るか?
日本の車両規格に合格した品質保証マークといった見方をされないか?
被告の需要者は,解体するための鉄道車両等の購入相手である鉄道会社等やリサイクルした製品,解体した鉄等の販売先であると認められる。
・(前記、他の表示との併用及び営業表示としての使用状況から)鉄道会社についてはともかくとしても,少なくともリサイクルした製品や解体した鉄等の販売先については,原告表示が原告の営業であることを示す表示として広く認識されているとは考えがたいところである。そして,原告表示が,原告の営業であることを示す表示としてリサイクルした製品や解体した鉄等の販売先の間に広く認識されていることを認めるに足りる的確な証拠はない。*広く一般の国民に認識されている、というのであれば、それ以上の検討は要しない?*両者の需要者が重なり合うという理屈が立てば、原告の需要者に認識されていれば、被告の需要者に認識されているかの検討は要しない?
←被告需要者が原告表示を認識していなければ、混同はない。
*被告が被告役務に使用した場合に混同を生じさせるかは、被告の需要者、すなわち、リサイクル事業の需要者に認識されているかが検討されるべきではないか?(⇒防護標章の周知性判断における需要者)
【周知性】認定 (1)銘板、新聞・雑誌の広告、新聞記事⇒原告表示に周知性あり *車両の銘板の注目率は? (2)不正競争防止法2条1項1号にいう広く認識された他人の営業であることを示す表示には,営業主体がこれを使用ないし宣伝した結果,当該営業主体の営業であることを示す表示として広く認識されるに至った表示だけでなく,第三者により特定の営業主体の営業であることを示すものとして用いられ,そのような表示として広く認識されるに至ったものも含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成5年(オ)第1507号同年12月16日第一小法廷判決・裁判集民事170号775頁参照)。 *アメックス事件 「アメックス」の略称が新聞記事等で使用されていたが、原告自身は未だ自ら使用していなかった、という事例だが、使用態様が統一されておらず、原告の積極的な統一使用がなかった、という本件とは事案を異にすると思われる。 (3)被控訴人は,控訴人表示は国名を表す「日本」と,鉄道車両に限られない車両全般を表す「車両」という普通名詞を組み合わせたものであり,識別性がないから,控訴人表示は,控訴人の営業表示として,需要者の間に広く認識されているとはいえないと主張する。  しかしながら,控訴人表示が普通名詞を組み合わせた表示であるとしても,前記 (2)のとおり周知性を獲得するに至っている以上,控訴人表示に識別性がないという被控訴人の主張は失当であり,これを採用することはできない。 被控訴人の事業の需要者と控訴人の事業の需要者は共通するものではなく,また,鉄道業者や鉄鋼生産業者は被控訴人の需要者ではないとして,仮に,控訴人表示が控訴人の需要者には周知でも,被控訴人の需要者には周知でないから,不正競争防止法2条1項1号は適用されない旨主張する。  しかしながら,前記のとおり,控訴人表示は,控訴人の営業表示として,控訴人の商品又は営業の取引者,需要者のほか,広く一般の国民に認識されているものである以上,控訴人の商品又は営業の取引者,需要者と被控訴人の商品又は営業の取引者,需要者との異同にかかわらず,被控訴人の商品又は営業の取引者,需要者の間における控訴人表示の周知性が否定されるものではない。 のみならず,不正競争防止法2条1項1号にいう「需要者」には,最終需要者に至るまでの各段階の取引業者も含まれると解すべきところ,控訴人は,鉄道車両の製造以外にも,建設機械製造,橋梁建設等を業として行っているから,その取引者,需要者には,鉄道車両を購入する鉄道会社のほか,建設工事業者や橋梁工事等で発生した産業廃棄物の処理業者等も含まれるものと考えられ, 一方,鉄道車両の解体,リサイクルを主たる目的とする被控訴人の取引者,需要者には,解体する車両を提供する鉄道会社のほか,リサイクルした製品,解体した鉄等の販売先等が含まれるものと考えられるから,両者の取引者,需要者は,相互に重なり合うか,あるいは,密接な関連性を有するものであるということができる。そうだとすると,控訴人の商品又は営業の取引者,需要者の間で控訴人表示が広く認識されているものである以上,被控訴人の商品又は営業の取引者,需要者の間においても,控訴人表示は広く認識されているというべきである。
控訴審
【類似性】
ある営業表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。
*マンパワー×ウーマンパワー事件被控訴人の商号である「日本車両リサイクル株式会社」は,会社の種類を表す「株式会社」の部分を除くと,「日本車両」と「リサイクル」で構成されている。このうち,「リサイクル」の部分は,業種を表すものであって,商品又は役務の出所識別機能が認められるものではない。他方,「日本車両」の部分は,「日本」と「車両」の普通名詞の組合せからなるものであるが,控訴人の営業表示として周知であることから,自他識別力を有するものである。そうすると,被控訴人の商号のうち,その要部となる「日本車両」の部分は,控訴人表示と外観,称呼(ニホンシャリョウ),観念において完全に同一である。
【混同】
不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が同人とその他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係など緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることは要しないと解される(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁,最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857頁参照)。
*アメリカンフットボール事件、スナックシャネル事件被控訴人の事業は車両の解体,リサイクルであり,他方,控訴人の主たる事業は鉄道車両の製造,販売であって,その業務内容には密接な関連性があるものと認められるから,控訴人と被控訴人との間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列などの緊密な営業上の関係が存すると誤信させるおそれがあることは明らかである。
解体する車両を提供する鉄道会社
→業界事情に通じており混同はあり得ない。 リサイクルした製品,解体した鉄等の販売先 →?

2.周知性判断における需要者

■モリト事件(大阪地判平4年12月24日)×「モリトジャパン」(類似性は肯定)
「原告商号は、遅くとも被告が設立された平成元年七月一〇日当時には、日本国内の、衣服、靴及びそれらの付属品・関連商品の製造業者や、衣服や靴の付属品・関連商品の流通に携わる問屋や小売店等の取引業者の間において、広く認識されるに至つており、それは現在に至るまで同様である、と認められる。
しかしながら、原告の宣伝広告は、原告の取扱商品の大部分が右のような専門取引業者を対象とするものである関係上、業界紙におけるものがほとんどであり、取扱商品中に一般消費者向けの商品が含まれてはいるものの、原告は商社としてその流通に関与するだけであつて直接一般消費者に販売するわけではなく、原告が発売元となつている商品も、商品自体ないし包装の目立つ位置に原告商号が表示されたものはごく一部にすぎず、本件全証拠によつても、原告商号が、一般消費者や、衣服や靴の付属品や関連商品以外の商品の取引業者の間においても、広く認識されるに至つているとは認められない。」

■勝烈庵事件(横浜地判昭和58年12月9日)
神奈川県横浜市に本店及び多数の支店を有するとんかつ料理店の「勝烈庵」の営業表示が、同県鎌倉市大船周辺においては周知であるが、静岡県富士市付近においては周知であるとは認められないとした。
「マスメデイアによる商号等の紹介の効果の程度については、当該営業の種類、紹介の方法、紹介の量等によつて異なることは言うまでもない。
そこで本件についてみると、第一に、マスメデイアで紹介されたといつても、その伝達の度合、すなわち、テレビ放映について言えば富士市内における視聴率、雑誌等については発行部数が証拠上不明であるという点はさておくとしても、紹介の頻度は前出のとおり少なくはないといつても、大量生産、大量消費される商品の広告のように、一日に何度もテレビ放映されたり、各種の雑誌等に毎号のように掲載されて、たとえその商号ないし商品に関心のない者であつても不可避的にその商号を覚えさせられて世人に周知されるという程度に頻繁に宣伝されているような場合と比較すると、原告の営業表示がマスメデイアに紹介された頻度はさほどのものではなく、原告の営業表示が当然に一般人に周知されたとは言えない。
第二に、マスメデイアを通じて送られてくる無数の情報のうち、その全部が一般の人々の注意を引き、記憶に残るものではなく、そのうち各自の生活に関連のある事項か、あるいはそれ以外については特段の注目すべき特色のあるものに限られるのが通常であつて、原告の営業表示がテレビ等で紹介されたといつても、富士市の住民にとつては、原告の店舗はあくまである程度遠隔の地の飲食店にすぎず、通常直接利用する機会のあるものではなく(この点では全国的に販売している生活用品の商品名、商号の宣伝の例等とは異なる。)、富士市の普通の住民にとつて特に関心を引く事項であるとは考えられない。」

■マイクロシルエット事件(東京地判平成15年2月20日)
ダイエット食品に関心のある需要者、商品の購入者に限られない。
「商品の認知者は,現実に商品を購入した者に限られないことは当然のことであるから,周知性の判断に当たって,現実の購入者数のみを問題とすることは意味がない。」
*著名性は否定
(原審)原告商品のようなダイエット食品については,その需要者の範囲が比較的限定されているとともに(市場調査においても,18~34歳の女性が対象とされている。),毎日反覆して消費することが予定されている商品であるから,販売実績数においても,継続的に消費した需要者の分が相当数を占めているものと考えられる。したがって,このような商品自体の特質等を考慮すれば,原告らの商品等表示としての原告標章(「マイクロダイエット」及び「MICRODIET」)が,「著名」なものとまでいうことはできない。

■ミーリングチャック事件(大阪地判平成16年11月09日)
「原告製ミーリングチャックの形態は、これらの工作機械工具類についての知識が豊富なミーリングチャック等の工作機械部品・工具の需要者、取引者の間では、相当程度において、他の業者の製品の形態と区別して認識されるに至っているものと推認できる。」
「しかしながら、前述のように、商品形態は本来は商品の出所を表示することを目的として選択されるものではなく、原告製ミーリングチャックにおいては、商品の出所を表示する商標として「NIKKEN」商標が必ず製品に付されていることに加え、構成<ア>ないし<オ>のそれぞれも、技術的機能に関連して選択されたものであり、これらの組合せ全体としてみても、必ずしも形態的に同種製品と比べて際だった特徴として捉え難いものであり、また、原告においても、格別に原告製ミーリングチャックのチャック部の特徴を宣伝広告の対象にしてきた事実もうかがわれない。そして、ミーリングチャックの取引実情においても、その形態を見て取引するというものでもない。
これらの事実を総合すれば、原告製ミーリングチャックの商品形態が商品の出所を表示するものとして需要者ないし取引者の間で広く認識されるに至っていると認定することは困難であるといわざるを得ない。」

■PTPシート事件(知財高判平成18年11月8日、平成18(ネ)10029)
「患者が購入する具体的な医療用医薬品は,医師の処方によって(医師が,医薬品の一般名をもって処方した場合には,薬剤師の調剤によって)決定されるものであり,これらの処方や調剤は,ともに極めて専門的な知識,経験に基づき,かつ,業務上の責任を伴って行われる選択行為である。確かに,患者が医師や薬剤師に対し,特定の医療用医薬品を処方,調剤することを要望することもあり得るところではあるが,そのような要望が容れられるのは,上記のような医師や薬剤師の専門的知識,経験に基づく選択の範囲内であって,相当と認められた場合に限られ,もとより,患者の要望に従ったからといって,処方,調剤をした医師や薬剤師の業務上の責任が解除されるわけではないから,たとえ,結果的に患者の要望のとおりとなったとしても,医療用医薬品の選択の主体が医師や薬剤師であることにいささかの変わりもない。いわゆる患者の自己決定権が尊重されるべきことは,そのとおりであるとしても,医療用医薬品の選択が,医療行為の一環をなすものである以上,それは,医師や薬剤師の判断と責任とにおいて行われるものであり,このことは,医療観の新旧によって左右される性質のものではない。そうすると,患者の要望は医師や薬剤師の選択の参考と位置付けられるにすぎず,患者について,医療用医薬品の需要者という程度にまで,その選択に係る主体性を認めることはできない。」

■角質除去具事件(知財高判平成23年03月24日)
(原審)「美容用の角質除去具という商品の性質上,美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者をその需要者とするものと認められ,これらの需要者が原告商品のような美容器具を購入するに当たっては,その機能のみならず,外形的なデザインの美しさや新しさにも着目する傾向が強いと考えられるところ・・・」

■ヒュンメル事件(大阪地判平成20年01月24日)
「サッカーシューズの需要者であるサッカー競技者や専門雑誌を購読するようなサッカーファンの間では,ヒュンメルブランドはサッカーシューズやサッカーウェアのブランドとして周知性を有していると認めることができる。」
「本件で問題となっている被告商品はスニーカー(カジュアルシューズ)であり,その需要者はサッカーとの関係の有無を問わない一般消費者であるので,一般消費者に対する「2本のくの字」状の図柄の周知性を検討する必要がある。」「ヒュンメルブランドの場合は,スニーカー一般の需要者の間でのブランド自体の認知度が低いことを併せ考慮すると,「2本のくの字」状の図柄が,単なる図柄ではなく特定の出所を表示する商品等表示として,被告商品の需要者である一般消費者の間で広く認識されているとは,認めるに足りないというべきであり,このことは原告商品等表示についても同様である。」

参考)防護標章登録における需要者の範囲
○宮脇正晴「防護標章の登録要件としての「需要者の間に広く認識された商標」の意義につき判断した知財高裁判決」特許研究、2011年3月
http://www.inpit.go.jp/content/100126269.pdf
「登録商標の地理的保護範囲は日本全国なのであるから、登録商標が知られていない(したがって混同のおそれの生じえない)地域における商標の使用行為について67条1号のみなし侵害が成立するのを極力避けるためには、防護標章の登録時点で原登録商標が全国的に知られていることを要求する必要がある。」
「需要者層の範囲については、指定商品・役務の需要者に知られていれば十分であると思われる。出所の混同により誤った商品・役務の選択をする危険があるのは、防護標章の指定商品・役務の需要者なのであり、それ以外の商品・役務の需要者に知られていることを要求することは混同防止の趣旨から正当化することはできない。」
「需要者層の範囲が明示されていない点は本判決の問題点の一つである。」

○網野誠「商標〔第6版〕」624頁
「出所混同を生ずるか否かは、著名の程度が全国的であるか否かのみによるものではない。全国的に著名でない場合においても、ある限られた非類似の商品又は役務については出所の混同を生ずる場合もあり得る。このような場合は、防護標章登録の商品・役務の範囲は比較的限定されるであろうから、第三者の商標選択の範囲を特に狭くするとものいい得ない。ただ64条は非類似の商品・役務についても他人の商標の使用を排除するものであるから、周知の程度は周知商標よりは強いものでなければならない。」

○審査基準
「著名の程度に至った場合」
○審査便覧
「原登録商標が国民の間に広く認識されている程度には至らないが、 当該産業部門の需要者の間に広く認識されている場合においては、その登録商標に係る指定商品又は指定役務が属する産業部門を超えない商品又は役務について防護標章の登録を認め得るものとする。」

○工藤莞司「商標審査基準の解説〔第6版〕」(2009年)509頁
「全ての消費者に知られているということではなくて、指定商品又は役務の取引者、消費者の大半の間で知られているということで足りる。」

3.識別力のない部分を含む表示の類否判断

(原審での被告主張)
「原告表示は,「日本の車両」や「日本で作られた車両」の観念を生ずるところ,「日本車両リサイクル」との表示は「日本にある」又は「日本で行う」「車両のリサイクル」の観念を生ずるものであり,観念も異なる」
「原告は,被告の商号を,「日本車両」と「リサイクル」に分けた上,「日本車両」の部分のみから原告表示と被告の商号の類似性を判断しようとするが,「日本」及び「車両」の語は識別力が弱いこと,「リサイクル」の部分は,被告の事業内容を示すもので省略することはできないこと,被告の取引相手も「リサイクル」の部分に着目すること等に照らせば,被告の商号は,「日本車両リサイクル」という一連一体のまとまりのある営業表示である」

【私見】
本件においては、「日本車両」が原告表示として需要者(需要者の範囲が問題だが)に周知であるとすれば、「日本車両」は分離できない一連一体の営業表示として看取されるので、被告表示は「日本車両+リサイクル」と認識され、よって類似すると判断できる。
しかし、「日本車両」の周知性が認められない場合には、被告主張のとおり、「日本+車両リサイクル」と看取されると考えられる。「リサイクル」という語には何をリサイクルするのか、という認知が働き、その前の語が意味する対象物のリサイクルであると理解されるのが自然だからである。
類否判断においては、識別力がない部分を常に捨象できるものではなく、結合する語と一体となって別異の観念が生じないかを見るべきである。
*弊所が代理した商標例
■不服2012-13736 「Ecoloタイマー(標準文字)」×「ecolo」 非類似
第9類「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具(「タイムスイッチ」を除く。)」ほか

■不服2012-11018 「スパイラルシャッター(標準文字)」×「SPIRAL(巻貝の図形)」 非類似
第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料」(シャッター含む)ほか

参考)商標登録状況
原告登録・出願商標

登録第4636089号
指定商品・役務
6、7、9、11、12、37、42類
3条拒絶克服
商願2011-29573(防護標章登録出願)
64条拒絶中
指定役務 40類
廃棄車両並びにその部品及び付属品の収集・解体・分別及び処分,廃棄車両の解体部材の再生処理
同上
登録第5261009号
指定商品 7、12類
拒絶なし

被告商標

登録第5314262号
指定役務 40類
廃棄車両及び廃棄船舶並びにそれらの部品及び付属品の収集・解体・分別及び処分,廃棄車両及び廃棄船舶の解体部材の再生処理
日本車両リサイクル株式会社(標準文字)
⇒社名変更
登録第5539759号 日本総合リサイクル(標準文字)

(弁理士 西村 雅子)
*本稿は、日本商標協会不正競業部会において、2013年7月に発表した内容のレジュメである。

topへ戻る