知財高判 平成21年3月26日 平成20年(行コ)第10002号
(原審 平成20年(行ウ)第82号)
我が国では、パリ条約の優先権の主張の手続を、我が国における出願と「同時に」行うように定められています(特許法43条1項。意匠法15条1項、商標法13条1項で準用)。
パリ条約では、各国が遅くともいつまでに優先権の主張をすべきか定めることができる(パリ条約4D(1))と定められており、日本ではこれを出願と同時としています。
しかしこの同時というのは、完全に同時なのか、それとも数時間~1日程度の誤差は許されるのか、その点が不明瞭でした。
意匠の出願から約2時間後に行った、パリ条約の優先権主張を追加しようとした補正手続が却下された事件において、却下処分の取り消しを求めて、裁判が行われました。 原告である出願人は、この「同時に」は「同一日に」と解釈されるべきであると主張し、裁判では上記の「同時に」の解釈が争われました。
また、同時の優先権主張を失念した場合に、後から補正で追加できるのか?という点も争われました。
原審の東京地裁では、「同時に」は「同一日に」と解釈することはできない、として却下処分の取り消しを認めませんでした。
また、出願時に優先権の主張に関する記述が全くないことから、優先権の主張の手続をしていないということになり、優先権の主張の手続の補正もすることができない、と判断されました。
そして控訴審である知財高裁においても、原審の判断を支持し、却下処分の取り消しを認めませんでした。
これにより、出願時に、特に「同時に」優先権の主張をしていない場合は、後から補正によって優先権の主張を追加することはできないことが明らかとなりました。もちろん、「同時に」優先権主張の記載があれば補正によって修正することはできるのですが、出願時に優先権主張の記載が全くないと、その出願についてはもはや取り返しはつかないということです。この場合、出願をいったん取下げた上で、優先権主張の記事を追加して出願し直す必要があります。