2014年7月3日
中国商標法が改正され2014年5月1日より施行されました。商標法の主な改正点及び法改正に伴う実務上の主な変更点は、以下のとおりです。
1.出願書式の変更
2.電子出願制度の導入
3.多区分一出願制の導入
4.分割出願の採用
5.音響商標の登録
6.審査修正手続の採用
7.審査期間の明文化
8.馳名商標の宣伝使用の禁止
9.商標異議申立制度の完備
10.更新申請期間の拡大
11.商標権の保護強化
12.経過措置(新旧法の適用)
1.出願書式の変更について
中国に出願する場合に、これまでは署名又は捺印した委任状を現地代理人に送付して手続を行っていましたが、改正後では以下のとおり多くの事項が要求されます。ただし、これは外国人にとって以前の実務要求より厳しくなり、時間の関係で優先権主張等に不都合が生じる可能性があるので、今後取り扱いが変更される可能性がある点をご承知ください。
(1) 願書に出願人の署名又は捺印のある原本(*2014年6月27日時点での運用)
(2) 委任状原本
(3) 出願人の資格証明写し(登記簿謄本等で出願人の署名又は捺印のあるもの)
2.電子出願制度の導入について
電子的方法により出願を行うことが可能となりました(実施条例8条)。
従いまして、願書は、電子データの特定フォーマットで作成して提出すれば良いです。委任状や資格証明の原本は物理的に現地代理人に送付している必要はなく、電子データで送付していれば足ります。ただし、電子出願の場合、指定商品は、中国区分表に記載された例示商品と一致していることが求められる点に注意が必要です。
3.多区分一出願の導入について
条文:22条(商標登録出願人は、一つの出願において、多数の区分について同一の商標を登録出願することができる。)
→日本と同じく多区分制度が採用されました。追加区分に必要な印紙代は一区分目と同額となっています。
4.分割出願の採用について
多区分制度の導入の伴い、出願を分割することが可能となりました(実施条例22条)。
分割が認められるのは、拒絶査定受領の日から15日以内に行わなければなりません。出願分割は、商品毎に行うこともできます。
5.音響商標の登録
条文:8条(自然人、法人又はその他の組織の商品を他人の商品と区別することができる文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色彩の組合せ及び音声等、並びにこれらの要素の組合せを含む標章は、すべて商標として登録出願することができる。)
→商標登録ができる対象として音響商標の登録が可能となりました。音響商標はその使用方法を説明する必要があり、楽譜で説明できない場合には言葉で説明することになります(条例13条5項)。なお、国歌や恐怖の叫び声等の社会的悪影響を与える可能性のある音は登録できません。
6.審査修正手続の採用について
条文:29条(審査の過程において、商標局が、商標登録出願の内容に関して説明又は修正が必要と判断したときは、出願人に説明又は修正を要求することができる。出願人が説明又は修正を行わないときは、商標局の審査決定に影響を及ぼさない。)
→これまでは、一部の商品にのみ先行商標との抵触関係があった場合でも拒絶査定となっていましたが、査定を受ける前に修正する機会が認められることで拒絶査定を回避することが期待できます。修正できる期間は通知書を受領した日から15日以内となっています(実施条例23条)。
なお、この手続は方式審査の段階における指定商品の不明確表示の補正とは異なり、実体審査を行った上での説明・修正要求で、日本の拒絶理由通知に近い性格を有します。
7.審査期間の明文化について
条文:28条(登録出願に係る商標について、商標局は、商標登録出願書類を受領した日から9ヵ月以内に審査を完了するものとし、この法律の関連規定を満たすときは、予備的査定を行い公告する。)
34条(商標審判委員会は、拒絶不服審判請求を受けた日から9ヵ月以内に決定を下し、請求人に書面で通知しなければならない。特別な事情があり、延長することが必要なときは、国務院工商行政管理部門の許可を得て、3ヵ月間延長することができる。)
→審査期間が出願から9ヵ月以内に終わらせることが明文化されました。
8.馳名商標の宣伝使用の禁止
条文:14条5項(生産、経営者は、「馳名商標」の表示を商品、商品の包装若しくは容器に使用したり、又は広告宣伝、展示及びその他の商業活動に使用したりしてはならない。)
→馳名商標として認められたとしてもそれを商業利用として表示することが禁止されました。この理由は、中国で「馳名商標」を企業の名誉称号として濫用されたことに伴い、証拠や案件の偽造によって「馳名商標」の認定を請求する事態が生じていました。それを規制するために、「馳名商標」という表示の使用は禁止されました。違反した場合には10万元の罰金が課されます。
9.商標異議申立制度の完備について
条文:33、35条(初歩査定され公告された商標について、公告の日から3ヶ月以内に、この法律の第十三条第二項及び第三項、第十五条、第十六条第一項、第三十条、第三十一条、第三十二条の規定に違反していると先行権利者、利害関係者が判断したとき、又はこの法律の第十条、第十一条、第十二条の規定に違反していると何人が判断したときは、商標局に異議を申し立てることができる。公告期間を満了しても異議申立がなかったときは、登録を許可し、商標登録証を交付し公告する。
商標局が登録決定を下すときは、商標登録証を交付し公告する。異議申立人に不服があるときは、この法律の第四十四条、第四十五条の規定により、商標審判委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。 )
→これまで、異議申立人については制限がありませんでしたが、無関係な第三者が異議申立を悪用して出願人に不当な要求するケースが出てきたため、申立人適格につきましては、先行商標との関係等の相対的拒絶理由については権利者又は利害関係を有する者のみ申し立てることができるようになりました。従いまして、申立時において権利者又は利害関係人であることの立証が求められます(実施条例24条)。識別力や公益的事由に基づく申立は従来通り何人も可能です。
また、異議申立の登録許可決定に対しては、直接の不服申立を行う機会を無くし、無効審判で別途争うことにしました。これにより審理の長期化による登録の遅延を防げるようになりました。なお、登録不許可の決定に対しては従来通り再審を請求することができます。
10.更新申請期間の拡大について
条文:40条(登録商標の有効期間が満了し、継続して使用する必要があるときは、商標登録者は、期間満了前の12ヵ月以内に規定に従って更新手続を行わなければならない。)
→これまでは満了日前6ヵ月から更新手続が可能とされていましたが、改正により満了日前12ヵ月から手続が可能となりました。
11.商標権の保護強化について
条文:57条(他人の登録商標の専用権を侵害する行為のために、故意に便宜を図り、商標権侵害の実施を協力していること。)
→商標権侵害の行為として、侵害行為の協力行為も侵害とみなされます。これはショッピングモール等のインターネットプロバイダーがその中にある店舗が商標権侵害を行っていることを知っていて(故意で)、販売行為を継続させるような行為を取り締まる目的で追加されました。これは日本のプロバイダー責任制限法に類する考え方で、日本と同じような取り締まりが可能となります。
また、損害額については日本と同じく、実損額→侵害者が得た利益→使用料相当額の順で算出することができますが、侵害者が悪意の場合にはこれらの額の1~3倍にすることができるようになりました(63条1項)。さらに、これらで算出が困難な場合に裁判所は、法定賠償額として300万元を上限として支払いを命じることができるようになりました(63条3項)。
さらに、侵害者が法定調査に協力しない場合には権利者の主張・立証に基づいて賠償額を決めることができます(63条2項)。
なお、侵害者が権利者の商標の不使用の抗弁も可能となり、権利者が3年間不使用の場合や実損を証明できない場合には損害賠償の責を負わないことになります(64条)。
12.経過措置
・2014年5月1日前に出願・申請した係属案件:新法が適用
・2014年5月1日前に申し立てた異議申立案件:異議申立主体適格と理由は旧法が適用、その他は新法が適用
・2014年5月1日前に請求した拒絶査定の再審:新法が適用
・2014年5月1日前に請求した異議決定の再審:異議申立主体適格は旧法が適用、その他は新法が適用
・2014年5月1日前に請求した無効審判と取消審判:手続は新法、実体的部分は旧法が適用
・2014年5月1日前の侵害行為:旧法が適用
・2014年5月1日前の侵害行為が5月1日以降にも継続している場合:新法が適用
13.その他
・悪意の冒認出願の禁止規定(15条2項)
条文:15条2項(同一又は類似商品について登録出願した商標は他人の先使用した未登録商標と同一又は類似し、その出願人が当該他人と前項に定めた情況以外の契約、業務往来関係又はその他の関係があることにより、他人の商標の存在を明らかに知っている場合には、当該他人が異議を申し立てた時、その登録を拒絶する。)
→業務提携等で他人の商標が未登録であることを知って出願した場合は、他人による異議があった場合には登録されないことが規定されました。
・先使用権の創設
条文:59条3項(商標権者がその登録商標を出願する前に、他人が同一又は類似の商品について商標権者より先に登録商標と同一又は類似の商標を使用し、且つある程度の影響を有するようになった場合、登録商標の商標権者は、当該使用人の元の使用範囲における当該商標の使用を禁止する権利を有しない。ただし、区別要素の追加を適宜に要求することができる。)
→中国で一定の知名度を有する未登録商標は継続して使用することができる旨の規定が創設されました。
・商号の不正競争行為
条文:58条(他人の登録商標、登録されていない馳名商標を企業名称における商号として使用し、公衆に誤認を生じさせ、不正競争行為を構成しているときは、「中華人民共和国反不正当競争法」により処理する。)
→他人の馳名商標を商号の一部に入れて馳名商標に間接的にただ乗りする行為は、不正競争行為であることが明記されました。
・ライセンス登録
ライセンスの登録はこれまで契約締結の日から3カ月以内に届け出る必要がありましたが、改正により契約期間内であればいつでも登録することができるようになりました。
以上
弁理士 宮永 栄
協力:北京林達劉知識産権代理事務所