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不使用取消審判における商標的使用

― 不使用取消審判の「使用」は商標的使用であることを要するか? ―

「LE MANS」事件

知財高判平成28年9月14日、平成28年(行ケ)第10086号

不使用取消 不成立審決支持

  • 不使用取消審判における使用に商標的使用を要するか
  • 駆け込み使用の主体
  • 周知商標が古くから他人に登録されている場合

【事案】

原告は、本件登録商標「LE MANS」に対して、その指定商品中「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類」について、不使用を理由とする取消審判を請求したが、特許庁から請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた事案。本件商標の使用が通常使用権者において本件不使用取消審判請求がされることを知った後であることを原告において証明したといえないので、被告の認識により判断した点において本件審決は誤りであるが、商標法50条3項本文に該当しないという審決の結論自体は誤りがないとして、原告の請求を棄却した。

なお、本事案の原告は、ルマン24時間自動車レースの主催者であり、先に本件商標が4条1項19号ほかに該当するとの理由で無効審判請求をしているが(無効2008-890047)、本件商標(1972年登録)について不正の目的をもって使用をするものとは断ずることはできないとして不成立となっている。

本件商標「LE MANS」(普通の欧文字)

商標登録第0971820号(登録日 昭和47年(1972)7月13日)

指定商品

第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」

第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,襟巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」

【判旨】

本件では、取引書類により、通常使用権者による本件商標の使用が認められているが、通常使用権者の行為は、商標法50条所定の使用に該当しない、との原告の主張に対して、不使用取消審判において登録商標の使用と認められるためには、出所識別標識として使用されていることを要しない(すなわち、商標的使用を要しない)旨、以下のとおり判示されている。

「商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。

上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。」

 

【評釈】

商標権侵害の場面では、平成26年改正により、26条(商標権の効力が及ばない範囲)に「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(同1項6号)が明記されたため、従来、同条を適用せずに商標的使用ではないと判断されてきた場合には同号が適用される。一方、商標権者自身が登録商標の使用を立証する不使用取消審判の場面では、形式的に2条3項の使用行為に該当すれば商標の使用として認められるかについては、特に26条1項6号に対応するような規定がない限り形式論でよいか、他人の使用を規制する商標登録の維持については商標権者の使用も「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていること」が求められるかについては、判断が分かれている。

登録商標の使用の実態あるいは将来の使用の蓋然性を見るのであれば、不使用取消審判の請求人の使用あるいは使用予定をも勘案して、どちらの使用がより法目的に沿う実態を伴うものであるかを比較衡量すべきとも考えられる。例えば、もし外国法人の登録商標が日本における使用の実態が現在ないとしても、本国において周知である場合には、取消審判の請求人がたとえ登録商標を取り消して自己の商標を登録しようとしても、4条1項19号の拒絶理由に該当することになる。このような場合には、商品が国内に流通している状態にある場合には、外国法人の登録商標は取り消すべきではないといえる。

登録商標の中には、登録から時間がたつにつれ識別力が低下している商標、結合商標が併存して希釈化している商標が多々存在する。普通名称化等により識別力を喪失した商標についての取消制度がない現行制度においては、除斥期間の経過により、もはや登録無効審判を請求できない商標に対して、不使用取消審判を請求するケースも多い。逆に考えれば、識別力を喪失した登録商標の個別的な整理方法として、不使用取消審判において識別力を発揮している態様での「使用」を求めることが考えられる。登録を維持するに値する商標権者の信用が登録商標に残存しているかという保護法益と、登録が残存しているがために取引上必要な商標の表示の使用を控える他人の不利益とを比較衡量すべきと考える。

以下は商標的使用を要しないという判断例である。

 

■POLA事件(東京高判平成3・2・28平2(行ケ)48)取消不成立審決支持

「商標の不使用を事由とする商標登録取消しの制度の存在理由(全く使用されていないような登録商標は、第三者の商標選択の余地を狭めるから、排他的な権利を与えておくべきでないとするのが、主たる理由と考えられる。)」「に鑑みても、商標法第五〇条所定の登録商標の使用」は、商標がその指定商品について何らかの態様で使用されておれば十分であって、識別標識としての使用(すなわち、商品の彼比識別など商標の本質的機能を果たす態様の使用)に限定しなければならぬ理由は、全く考えられない。」

 

■アイライト事件(知財高判平成27・11・26 平26(行ケ)10234)取消不成立審決支持

「商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。

上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。」

一般需要者向けではなく企業向けのB to B商品については、受注生産、カスタマイズ納品等により、市場には流通しない場合がある。上記事例の商品は「HIDランプ集魚灯」という用途が特殊かつ高価なものであり、需要者は漁船の船主に限られている。当該商品の需要が減少したことにより、受注生産に切り替えられており、需要者は発注に際しては「M2000BW/V」などの形式で特定するため、取引書類には商標が記載されていない。本件商標は、商品を納品する個装箱のみに付されていたという事例である。(侵害の場面においては、発注者、受注者間でのみ認識される商標であるため、内輪で使用している符号と同様に考えられ、商標として使用されているのか疑問がある。)

一方、最近の審決取消訴訟の判決でも、原告(審判請求人)の、被告(審判被請求人)の使用が「商標的使用ではない」との主張に対し、商標的使用であるかの判断がされている。以下の例では、使用態様の検討から、当該商標が自他商品識別力を発揮しているかが検討されている。

 

■ヨーロピアン事件(知財高判平成27・9・30平成27(行ケ)10032)取消不成立

本件商標「ヨーロピアン」、取消請求に係る指定商品第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆」

「本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章の使用は,「コーヒー」が商品の名称に過ぎない以上,本件商標である「ヨーロピアン」を単独で使用した場合と同様に解することができ,本件商標と社会通念上同一の商標の使用であると解すべきである。」「「ヨーロピアン」との標章は,コーヒーあるいはコーヒー豆に使用されている場合は,ほかに強い自他商品識別機能を有する商標と併用されているときには,単なる品質を表示するものとして使用されていると解される場合が多いものの,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章のように,他の自他商品識別機能の強い商標と併用されることなく,単独で使用され,かつ,他の文字に比べると大きく,商品の目立つ位置に表示され,さらに®が付されて表示されているときには,それ程強いものではないけれども,一応自他商品識別機能を有する商標として使用されているものと認められる。」

よって、形式的には、商標が商品に表示されている、あるいは役務に関係して表示されているなどの2条3項に該当する使用があるとしても、「商標的使用ではない」として取り消される可能性は依然としてあるといえる。

(弁理士 西村雅子)

 

 

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