知財高判 平成 20年5月28日 平成19年(行ケ)10402
意匠法は、新規に創作されたデザインを保護することを目的としています。では、何年も使われ続け、よく知られたブランド的デザインは、意匠法ではどう扱われるのでしょうか。
商品として販売される際には、これらブランド特有のデザインは、取引秩序の保護法である商標法(図形商標、立体商標)、または不正競争防止法によっても保護することが可能です。
意匠法においても、このブランド的デザインが登録されていれば、これに類似する意匠の他人による実施を防止することができますが・・・日本の意匠法は、特許法や実用新案法と同様の創作保護法であるが故に、「新しい」デザインでなければ保護されないという宿命を抱えています。
そのため、何年も使われ続けてよく知られたブランドデザインは、「新しく」ないので、つまり保護価値が低く類否判断の際に重視されないのではないか。そのような懸念が生じてきます。
まさにこの点が問題となったのがこの裁判でした。
この事件では、とある外国のスニーカーのメーカーのブランドデザイン(靴の側面に5本の斜めのラインがある)と、同様の5本の斜めのラインを施した日本の靴メーカーの登録意匠は類似しているのではないかとして、登録の無効を求めて争われました。
知財高裁では、「共通点又は差異点の認定に係る構成態様がよく知られたものであるときは,そのような構成態様は通常ありふれたものであるから,一般に看者の注意を引き難くなり,そのような構成態様に係る共通点又は差異点が類否判断に及ぼす影響も相対的に小さいことが多く,したがって,両意匠の共通点をなす構成態様がよく知られたものであるときは,当該共通点によって両意匠が類似と判断される度合いは低くなることが多いということはできる。しかしながら,ある物品に係る特定の製造販売者が,その製造販売に係る当該物品の特定の部位に,特定の構成態様からなる意匠を施し,そのような意匠が施された物品が,当該特定の製造販売者の製造販売に係る商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたため,当該意匠の態様が,その製造販売者を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至ったような場合においては,当該物品に関する限り,そのような意匠の態様は,広く知られているからといって,看者の注意を引き難くなるものではなく,むしろ,広く知られているために,かえって,その注意を引くものであることは明らかであり,そうであれば,そのような構成態様が共通する場合においては,その共通点が意匠の類否判断に及ぼす影響は,相対的に大きいものとなるというべきである。」 と判断基準が示されました。判決は長年ブランドデザインを使用してきた外国メーカーの訴えを認め、公知意匠に類似する登録であるとして審決を取り消しました。
これにより、長年使用され需用者に広く知られたロゴマークに相当するようなブランドデザインは、意匠の類否判断の際も重視されるべきものであると示されたといえ、これまでの画一的な類否判断に一石を投じた、画期的な判決といえると思います。
なお、この点に関連して、現在の意匠法では改正により、意匠の類否の判断基準を「需用者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて」判断すると明示され、法文の規定上も上記の判決の判断を適用しやすくなった、といえます。