平成23年(行ケ)第10326号審決取消請求事件
平成24年11月15日判決言渡 知的財産高等裁判所
【概要】
4本線からなる商標がアディダス社の著名な3本線商標との関係では混同しないと特許庁で判断された審決が知財高裁で取り消され無効とされた事件。
【本件商標】
登録第4913996号
指定商品・役務:
第25類「履物,運動用特殊靴」
【アディダス社の商品等表示】
【関係条文】
商標法4条1項15号
【事案の内容】
ドイツのスポーツメーカーであるAdidas AG社(アディダス社)が、履物・運動用特殊靴について登録された4本線からなる商標に対して異議申立を行ったが維持する決定がなされ、別途出所の混同及び公序良俗違反を理由として無効審判を提起するも登録を維持する審決がなされた。そこで、知財高裁へ審決取消訴訟を提起した。
判決では、アディダス社の三本線商標は著名であると認定し、本件商標が靴の甲の側面に使用された場合、商標の上下両端部における構成が視認し難く、4本線の部分とそれらの間に存在する3つの空白部分とで、4本線か3本線かの区別が難しい場合があり、本数の相違はさほど大きな区別のメルクマールにはならないと判断しています(左図)。
判決では、アディダス社の三本線商標は著名であると認定し、本件商標が靴の甲の側面に使用された場合、商標の上下両端部における構成が視認し難く、4本線の部分とそれらの間に存在する3つの空白部分とで、4本線か3本線かの区別が難しい場合があり、本数の相違はさほど大きな区別のメルクマールにはならないと判断しています(左図)。
さらに、アディダスの商品には本件商標にみられるステッチや換気用の穴が設けられているものもあるため、かかる部分は識別要素になりえず、よって本件商標はアディダス社の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると判断されました。
【評釈】
アディダス社の3本線商標は長年使用されおり、2本線、4本線、5本線の直線からなる商標に対しては、世界中で争いが繰り広げられており、アディダス社は成果を出している。今回、知財高裁が下した判断は、殆どの国の判断と同じであり、混同の判断に加味した取引実情は妥当である。
しかし、現実に2本線や5本線をシューズの側面に配したものは存在している。欧州では、アディダス社がパトリック社の2本線の商標に対して2011年に異議申立を行った。これは形式不備で却下になったが、パトリック社は自社サイトで自己のロゴについて「During the 30-ies, even yet before Adidas made use of the 3 stripes, Patrick introduces the 2 stripes and 3 stripes on their shoes. The 2 stripes and 3 stripes were born out of technical considerations. The stripes were used to strengthen the shoes in the front and at the back in order to avoid deformation of the shoe. Patrick was one of the pioneers in the world of brands that used this technique. As the shoes were technically improved the use of the stripes became more and more less functional rather than a matter of design.」と紹介し、側面の線は機能から生まれたものと説明している。
平行した複数の直線かなる商標のすべてがアディダス商標と混同するわけではない。平行した複数の直線はそれ自体それ程識別力が強いわけではないため、ある程度の線引きが必要であろう。もちろん、各種事情を考慮して決せられるべきではあるが、4本線は一見3本線にも見えアディダス社の信用のただ乗りが伺えるが、2本線や5本線以上となると外観の近似性が弱くなるため、混同するとの判断は難しくなろう。
(2本線)Patrick社製
(5本線) K-SWISS社製
(画像:http://www.patrick.jp/、http://www.k-swiss.jp)
以上
(弁理士 宮永 栄)