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「面白い恋人」事件のご紹介

石屋製菓(札幌市)が主力商品「白い恋人」の商標権を侵害したなどとして、土産菓子「面白い恋人」を企画・販売する吉本興業など3社を札幌地裁に提訴した。「白い恋人」はアジア観光客の土産品として人気を集めるなどブランド価値が高まっており、石屋製菓は模倣品への厳格な対応が必要と判断したとのことである(日本経済新聞2011年11月28日)。

石屋製菓は「白い恋人」について複数の登録商標を有している。文字については登録第1435156号「白い恋人」(昭和55年(1980年)9月29日登録)ほか、パッケージ(「白い恋人」の文字とパッケージ図柄)については登録第4778317号ほかである。商標権侵害については、商標が類似と判断される必要があるが、「面白い恋人」が「白い恋人」と類似するかについて、一般的な商標の類否判断基準(外観、観念、称呼)で、類似と判断するのは困難である。

「白い恋人」が石屋製菓の商標として周知あるいは著名であるとした場合、特許庁の審査基準では、商標法4条1項11号(先願商標との類似)について、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。 ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除く。」とある。「面白い恋人」は「白い恋人」を取り込んではいるが、「白い」は「面白い」という既成の語の一部となっているので、類似と判断するのは審査基準上は無理がある。

ここに取引実情を考慮しても、需要者は「面白い恋人」は「白い恋人」のパロディ商品と認識しているのであって、出所の誤認はないと考えられるので、やはり非類似と考えられる。

裁判所の判断でも、PUMA事件(知財高判平成22年7月12日、平成21(行ケ)10404)において、「PUMA(プーマ)」の称呼の著名商標と、そのパロディ商標とみえる「SHI-SA(シーサー)」の称呼の商標について、動物図形に共通性がありながら、非類似と判断しているところである。

石屋製菓がいわゆる全形商標(パッケージそのものの外観からなる商標)についても登録していることから、文字のみの比較ではなく、「面白い恋人」のパッケージが石屋製菓のパッケージについての登録商標と類似すれば、なお商標権侵害の可能性はある。しかし、パッケージの絵柄については、以下に示すとおり、相当の相違があり、これも商標法上類似と判断するのは困難である。

商標法4条1項15号(出所混同のおそれ)については、同じく特許庁審査基準では、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする。 ただし、その他人の著名な商標の部分が既成の語の一部となっているもの、又は、指定商品若しくは指定役務との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものを除く。」とされている。ここで15号の趣旨にはフリーライド規制や希釈化防止が含まれることがレールデュタン最高裁判決(最判平成12年7月11日、平成10(行ヒ)85)で示されているので、この観点から出所混同のおそれを広く解することも考えられる。しかし、出所混同のおそれがある範囲というのは、商標権の効力範囲ではないので、この理由による場合には、不正競争防止法による請求が認められる必要がある。

実際、「面白い恋人」は吉本興業の関連会社である株式会社吉本倶楽部により出願されていたが(商願2010-66954)、4条1項7号(公序良俗)違反で拒絶査定されている。拒絶理由通知では、4条1項11号及び15号も拒絶理由として挙げられていたが、特許庁で最終的には、類似も出所混同のおそれも適用に無理があると判断されたと考えられる。拒絶査定における7号該当の理由は、「出願人が本願商標を採択、使用することは、商品名称や商品パッケージにユーモアを加えるというよりは、前記「白い恋人」の名声や顧客吸引力に便乗するものと推認されるものであって、更に商標登録することによって、その名声や顧客吸引力の希釈化を進めるおそれがあるというべきであり、結局、公正な取引秩序を乱し、公の秩序を害するおそれがある」というものである。

そこで、「面白い恋人」が不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するかであるが、「白い恋人」が著名と判断されるのであれば、混同が要件ではない2号を適用できる。しかし仮に著名であるとしても、なお商品表示(商標)として類似するかが問題となる。ここで不競法上の類否判断は商標法上の類否判断よりも類似範囲が広いとの見方もある(「マイクロダイエット」と「マイクロシルエット」が類似と判断された不正競争事件(東京高判平成15年9月25日、平成15(ネ)1430・2994)参照)。混同を要件としない2号の趣旨が著名商標の希釈化防止にあることから、その観点から「面白い恋人」が「白い恋人」と類似と判断すること、またパッケージの絵柄の類似性についても、不競法上は類似と判断することは可能と考えられる。

希釈化というのは、著名商標がもっている当該ブランド商品に向けた指標性が、紛らわしい商品の出現によって分散して指標性が弱まることと考えられる。パロディ商品側がブランド商品側に許諾を求めたとしてもブランド側が許諾することは通常考えられず、また、パロディ商品側も、独自の商品であると主張してパロディとは認めないか(PUMA事件)、パロディと認めたとしても独自性がある、すなわち類似しないと主張することになる。

本件について、吉本興業は、「弊社は、吉本興業なりの「笑い」と「ユーモア」が詰まった商品を数多く世に送りだし、これを手にしたお客様、その商品を贈ってもらった方全てに、小さな笑いと笑顔を持ってもらい、心を明るくしてもらいたい、それを、一つの地方から日本全国に広げていきたいという思いを持って商品開発に取り組んで」きたものであり、「決して、石屋製菓様のブランドを貶めるというようなことや、石屋製菓様の商品の著名度を利用して不当な利益を得ようなどというつもりで開発した商品ではない」とのコメントをホームページに掲載している(平成23年11月29日)。しかし、「一つの地方から日本全国に広げていきたい」というところで、不正競争防止法上の抵触が起こるおそれがある。あるブランド商品を想起させる商品が、一地方においては知名度がありブランド商品と出所混同のおそれがないとしても、ブランド商品が著名度を獲得した地域(ブランド商品を想起させる商品に知名度がない地域)においては出所混同のおそれがあるか、あるいは両者が並んで販売されている場合にブランド商品を想起させるがゆえに売れる、ということであれば、フリーライドのおそれがあると考えられる。不正競争防止法に抵触しない配慮としては、相手方の本拠地あるいは拠点となる販売地には乗り込んでいかないという棲み分けを意識するのが安全といえる。逆に、全国的にブランドを確立している方も、ある特定の地域においては、地域性のある商品の方が当該地域の需要者に対する周知性が勝る、ということもあり得る。
(弁理士 西村雅子)

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